【解説】Augurにおける各アクターの支出と収入

Augurを利用する各アクターの支出と収入について解説したいと思います。

はじめに

Augurでは、システムを維持するための作業を行った人、あるいは危険を冒してAugurをセキュアに保とうとした人に対して報酬が支払われます(=収入)。

逆に、システムを維持するための作業を怠った人、AugurのシステムあるいはAugurを維持する作業者の力を利用する人、Augurを危険にさらそうとした人には対価が要求されたりペナルティが課されます(=支出)。

本文では、このAugurの各アクターの支出と収入をできるだけ簡単に説明することを目的とします。

※Ethereumネットワークを使用する際に支払うgasコストは本文に含んでおりません。gasコストの予測については以下の記事をご覧ください。

説明対象のアクターは以下の通りです。

マーケット作成者

マーケット作成者とは

マーケット作成者(market creator)とは、文字通り未来を予測するための「マーケット」をAugur上に作成する人のことです。

支出

マーケット作成時に以下の保証金を支払う必要があります。

名称 タイミング 通貨 条件
有効性保証金
(validity bond)
マーケット作成時 ETH 必須
不参保証金
(no-show bond)
マーケット作成時 REP 必須

※各保証金の詳細解説は以下をご覧ください。


収入

指名レポートが行われ、無効(invalid)以外にファイナライズすれば支払った保証金は返却されます。また、作成したマーケットで特定の条件の下シェアのトレードが行われると、作成者手数料(creator fee)を獲得できます。

名称 タイミング 通貨 条件
有効性保証金
(validity bond)
ファイナライズ時 ETH 無効(invalid)以外のアウトカムにファイナライズ
不参保証金
(no-show bond)
指名レポート完了時 REP 指名レポートが行われる
作成者手数料
(creator fee)
ウィニングシェアの払い戻し時 ETH 条件無し
作成者手数料
(creator fee)
トレードによる未決済建玉減少時 ETH 条件無し

※作成者手数料の詳細解説は以下をご覧ください(作成者手数料は決済手数料の一部です)。

考察

マーケット作成者は、アウトカムが無効(invalid)でファイナライズしないまともなマーケットを作成し、設定した指名レポーター(designated reporter)によるレポートが行われれば、収益が赤字になることは無いでしょう。

トレーダー

トレーダーとは

ここでの「トレーダー」は、Augurで作成されたマーケット内でシェア(share)の売買を行うユーザーを指します。

支出

特定の条件の下、シェアをトレードすると手数料が発生します。

名称 タイミング 通貨 条件
作成者手数料
(creator fee)
ウィニングシェアの払い戻し時 ETH 必須
レポーティング手数料
(reporting fee)
ウィニングシェアの払い戻し時 ETH 必須
作成者手数料
(creator fee)
トレードによる未決済建玉減少時 ETH 必須
レポーティング手数料
(reporting fee)
トレードによる未決済建玉減少時 ETH 必須

※シェア、未決済建玉の減少についての詳細解説は以下をご覧ください。



※作成者手数料、レポーティング手数料の詳細解説は以下をご覧ください。

収入

なし。
※厳密には、シェアを取引する(=シェアを安く買って高く売る、あるいは賭けに当たったシェアを払い戻す)ことで収入を得られる可能性がありますが、本文の主旨とは異なるため説明を省略します。

考察

大まかに言うと、トレーダーは所有するシェアをお金(ETH)に戻す際に手数料を支払う必要があります。そして収入を得るにはシェアをトレードして利益を出すか、賭けで勝つしかありません。

Augurから何も報酬が無いという意味で、トレーダーはAugurのシステムを維持したりセキュアに保つ人ではなく、ただAugurを利用するだけのユーザーと言えます。

指名レポーター

指名レポーターとは

指名レポーター(designated reporter)とは、マーケットが終了日時(end time)後に3日間設けられている指名レポーティングフェーズ(designated reporting phase)中にレポートする権利が与えられたユーザーのことです。

指名レポーターはマーケット作成者によってマーケット作成時に設定されますが、一般にマーケット作成者自身が設定されると予想されます。なお、マーケットに対して最初にレポートする権利を有するのがこの指名レポーターです。

支出

指名レポートを行うにはREPをステークする(=支払う)必要があります。このステーク額はAugurにより自動設定されます。

名称 タイミング 通貨 条件
指名レポーターステーク
(designated reporter stake)
指名レポーティングフェーズ REP 必須

※指名レポーターとそのステークについての詳細解説は以下をご覧ください。

収入

他のレポーター同様、レポートしたアウトカムが正しければステークしたREPは返却され、誤ったレポーターのREPの一部を獲得します。さらに、ステーク中はその期間に生じた手数料、保証金の一部を獲得します。

名称 タイミング 通貨 条件
自身がステークしたREP ファイナライズ時 REP 自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
誤ったレポートを行ったレポーターのREPの一部 ファイナライズ時 REP 自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
レポーティング手数料の一部
(reporting fee)
ファイナライズ時 ETH 条件無し
有効性保証金の一部
(validity bond)
ファイナライズ ETH ステーク対象以外のマーケットが無効(invalid)でファイナライズする
自身がステークしたREP+5% ファイナライズ時 REP ステーク対象のマーケットでフォークが発生する

※レポーティング手数料と有効性保証金についての詳細解説は以下をご覧ください。


考察

正直にレポートすれば(=自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになれば)ステークしたREPは返却され、誤ったレポートを行ったレポーターのREPをステーク量に応じて受け取ることができるでしょう。

また、ステーク中はREPがロックされますが、パーティシペーショントークン購入者と同様に、ステークしたREP量に応じてレポーティング手数料と有効性保証金の一部が分配されます。(ステークすることによってパーティシペーショントークン購入者より不利にならないよう設計されています)

ステーク対象のマーケットでフォークが発生すると、そのマーケットでステークしているREPはステークしているアウトカムに該当するチャイルドユニバース(child universe)へ自動移行されます。フォーク期間中(forking period)にREPをチャイルドユニバースへ移行するとREPが+5%増加する仕様のため、ステークしているREPはこの仕様が適用され、REPが+5%増加します。

ファーストパブリックレポーター

ファーストパブリックレポーターとは

ファーストパブリックレポーター(First Public Reporter)とは、指名レポーターがレポートを行わなかった際、最初にレポートを行うレポーターのことです。通常、マーケットは指名レポーターが最初にレポートを行いますが、何らかの理由で指名レポートが行われなかった場合、このファーストパブリックレポーターがレポートを行います。このレポーターには早い者勝ちで誰でなることができます。

支出

なし。
※レポートでステークするためのREPは不参保証金(no-show bond)で賄われます。

※不参保証金の詳細解説は以下をご覧ください。

収入

他のレポーター同様、レポートしたアウトカムが正しければステークしたREPは返却され、誤ったレポーターのREPの一部を獲得します。さらに、ステーク中はその期間に生じた手数料、保証金の一部を獲得します。

名称 タイミング 通貨 条件
不参保証金
(no-show bond)
ファイナライズ時 REP 自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
誤ったレポートを行ったレポーターのREPの一部 ファイナライズ時 REP 自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
レポーティング手数料の一部
(reporting fee)
ファイナライズ時 ETH 条件無し
有効性保証金の一部
(validity bond)
ファイナライズ ETH ステーク対象以外のマーケットが無効(invalid)でファイナライズする
自身がステークしたREP+5% ファイナライズ時 REP ステーク対象のマーケットでフォークが発生する

※レポーティング手数料、有効性保証金についての詳細解説は以下をご覧ください。


考察

レポーターの中で唯一支出が無いのがこのパブリックレポーターです。正しいアウトカムをレポートできれば、支出無しで収入が得られます。このことはユーザーがファーストパブリックレポーターになる強力なインセンティブとなり、結果、マーケットがファイナライズされるまでにかかる時間が短縮されるでしょう。

パーティシペーショントークン購入者

パーティシペーショントークン購入者とは

パーティシペーショントークン購入者とは、文字通りパーティシペーショントークン(participation token)を購入したユーザーのことです。このトークンは手数料期間(fee window)毎に購入が可能であり、所有しているとその手数料期間中に発生したレポーティング手数料(reporting fee)などを受け取ることができます。

支出

パーティシペーショントークンの購入は手数料期間毎に購入可能です。支払いはREPです。

名称 タイミング 通貨 条件
トークン購入のためのREP 手数料期間毎。
手数料期間中いつでも購入可
REP 必須(トークン購入希望者のみ)

※パーティシペーショントークンの詳細解説は以下をご覧ください。

収入

手数料期間が終了すると、購入のためにステークしていたREPが返却され、さらにその期間に発生したレポーティング手数料と有効性保証金もトークン量に応じて分配されます。

名称 タイミング 通貨 条件
トークン購入時に支払ったREP 購入時点の手数料期間終了時 REP 条件無し
レポーティング手数料の一部
(reporting fee)
購入時点の手数料期間終了時 ETH 条件無し
有効性保証金の一部
(validity bond)
購入時点の手数料期間終了時 ETH マーケットが無効(invalid)でファイナライズする

※レポーティング手数料、有効性保証金についての詳細解説は以下をご覧ください。


考察

REP保有者がもっとも手軽かつ低リスクで収入を得る手段が、このパーティシペーショントークンを購入する方法です。レポートを行って収入を得る方法は、誤ったレポートを行うとステークしたREPを失ってしまいますが、パーティシペーショントークン購入ではそのリスク無しで収入を得ることができます。

ただし、レポートすれば誤ったレポーターのREPを取得できる可能性があるため収入は大きいです。レポーターは「ハイリスク・ハイリターン」、パーティシペーショントークン購入者は「ローリスク・ローリターン」と言えます。

パーティシペーショントークン購入者のリスクは、購入で支払ったREPが購入時点から手数料期間が終了するまでの間、Augurにロックされてしまう点と考えています。なぜならば、ロック中はREPを動かすことはできず、もしREPを手放したい(売りたい)と思っても手数料期間が終了するまで最長一週間待たなくてはなりません。また、Augurの脆弱性によりロックされているREPが紛失・盗難にあう可能性もゼロではありません。

争議参加者

争議参加者とは

争議(dispute)とは、争議フェーズ(dispute round phase)にあるマーケットで、暫定アウトカム(tentative outcome)に異議があるREP保有者が自身が正しいと思うアウトカムにREPをステークし、暫定アウトカムの変更を試みる行為のことです。

争議参加者とは、この争議に参加(=REPをステーク)した人のことを指します。

支出

争議参加者の支出は、争議のためにステークするREP(=争議ステーク(dispute stake))のみです。

名称 タイミング 通貨 条件
争議ステーク 争議ラウンドフェーズ中 REP 必須(争議希望者のみ)

※争議ステークの詳細解説は以下をご覧ください。

収入

争議ステークが争議保証金(dispute bond)に到達すれば「争議は成功」、到達しなければ「争議は失敗」です。

争議が失敗すればステークしたREPは返却されます。

逆に、争議が成功した場合、ステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになれば ステークしたREP+誤ったレポーターのREP を受け取ることができます。しかしファイナルアウトカムにならなければステークしたREPを失います。

また、ステーク中はREPがロックされますが、パーティシペーショントークン購入者と同様に、ステークしたREP量に応じてレポーティング手数料と有効性保証金の一部が分配されます。(ステークすることによってパーティシペーショントークン購入者より不利にならないよう設計されています)

ステーク対象のマーケットでフォークが発生すると、そのマーケットでステークしているREPはステークしているアウトカムに該当するチャイルドユニバース(child universe)へ自動移行されます。フォーク期間中(forking period)にREPをチャイルドユニバースへ移行するとREPが+5%増加する仕様のため、ステークしているREPはこの仕様が適用され、REPが+5%増加します。

名称 タイミング 通貨 条件
ステークしたREP 争議ラウンド終了時 REP 争議失敗時
ステークしたREP ファイナライズ時 REP 争議が成功し、自身がステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
誤ったレポートを行ったレポーターのREPの一部 ファイナライズ時 REP 争議が成功し、自身がレポートしたアウトカムがファイナルアウトカムになる
レポーティング手数料の一部
(reporting fee)
ファイナライズ時 ETH 条件無し
有効性保証金の一部
(validity bond)
ファイナライズ時 ETH ステーク対象以外のマーケットが無効(invalid)でファイナライズする
自身がステークしたREP+5% ファイナライズ時 REP ステーク対象のマーケットでフォークが発生する

※レポーティング手数料、有効性保証金についての詳細解説は以下をご覧ください。


考察

誤ったレポートを正すために存在するこの争議参加者は、Augurにとって非常に重要な存在です。

Augurでは争議でステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになれば、ステークしたREPが+50%増えるよう設計されています。このことは争議に参加させる強力なインセンティブとなるでしょう。

しかしステークしたアウトカムがファイナルアウトカムにならなければ、ステークしたREPは全て没収され正しいレポートを行ったレポーターに分配されてしまします。そのため争議への参加を躊躇するREP保有者も少なからずいるでしょう。

争議参加者はハイリスク・ハイリターンなアクターであると言えます。

フォークでREPを移行した人

フォークでREPを移行した人とは

Augurのフォーク(fork)が起きる条件は、あるマーケットの争議保証金(dispute bond)フォーク閾値(fork threshold)を超えることです。

フォークが発生するとフォークマーケット(fork market)に存在したアウトカム(outcome)数だけチャイルドユニバース(child universe)が生成され、各チャイルドユニバースではそれぞれのアウトカムがファイナルアウトカムとして扱われます。

フォークの発生元であるユニバース=ペアレントユニバース(parent universe)に存在するREPの使用用途は無くなりその市場価値はやがて失われる(と予想される)ため、REP保有者は保有する自身のREPをいずれかのチャイルドユニバースに移行する必要があります。

この移行作業に期限はなく、フォーク開始直後に移行しても構いませんし、一年後に移行しても構いません。ただし、フォーク発生後の60日間はフォーク期間(fork period)と呼ばれ、この期間中にREPをチャイルドユニバースに移行すると、移行先のチャイルドユニバースでREPが+5%されます。フォーク期間後に移行してもペナルティはありませんが、+5%のボーナスもありません。

なお、50%超のREPが移行されるとフォーク期間は終了します。つまり60日を待たずしてフォーク期間は終了する可能性があります。

※フォークについての詳細解説は以下をご覧ください。

支出

支出はチャイルドユニバースに移行するREPのみです。

名称 タイミング 通貨 条件
移行したいREP フォーク期間中 REP 必須(移行希望者のみ)

収入

フォーク期間が終了するとマーケットはファイナライズし、移行したREPを保有者に返却するとともに+5%のボーナスを付与します。

名称 タイミング 通貨 条件
移行したREP ファイナライズ時 REP フォーク発生後にREPを移行する
移行したREP+5% ファイナライズ時 REP フォーク発生後、フォーク期間中にREPを移行する

考察

AugurのREPは1100万REPが発行済みで、AugurでREPをステークすることによるREPの増減はゼロサムであるためREPの発行総数が増えることがありません。しかし、唯一新規発行されるのがこの「フォーク期間中にREPを移行する」行為です。
[注意]これは2018年7月2現在の仕様です。Augurではレポーティング手数料を決定するためにREPの時価総額の情報が必要です。しかしその情報を非中央集権的に取得するためのオラクルが未だ存在していません。そのため、REPの時価総額を非中央集権的に取得する「ダブルオークション」という機能追加が検討されており、この機能が追加されるとREPが新規発行される可能性があります。

ホワイトペーパーでは「果たしてこの移行ボーナス5%が、フォーク期間中に移行する十分な動機付けとなるかは分からない」と明言しており、また「フォークは破壊的で消耗的。核兵器のようなものでAugurの最終手段である」という主旨の記述もあります。

実際にフォークが発生した時、5%のインセンティブによって正しくファイナライズできるのか、まだ誰にも分かりません。