【解説】争議保証金(dispute bond)


Augurの争議保証金(dispute bond)について解説します。

争議保証金とは

争議保証金とは、争議ラウンドフェーズ(dispute round phase)にあるマーケットの暫定アウトカム(tentative outcome)を変更させるために必要なREP量のことです。

あるマーケットが争議ラウンドフェーズにある場合、そのマーケットの暫定アウトカムに不満があるREP保有者は、保有するREPを暫定アウトカム以外のアウトカムにステークすることで、その暫定アウトカムに対して異議を唱える(=ステークしたアウトカムを暫定アウトカムにしようと試みる)ことができます。

ただし、暫定アウトカムを変更するには一定量のREPが必要で、この必要となるREPが争議保証金です。

争議でステークするREPのことを争議ステーク(dispute stake)と言いますが、あるアウトカムへの争議ステークが争議保証金額に到達すれば、そのアウトカムが暫定アウトカムに変更されます。このことを「争議が成功する」と言い、逆に、争議ラウンド中に争議ステークが争議保証金額に到達しなければ「争議が失敗した」と言います。

争議保証金の支払いは、一人のREP保有者が全額支払っても良いですし、複数のREP保有者で支払っても構いません。どちらでも最終的に争議ステークが争議保証金額に到達すれば、その争議は成功です。

ステーク可能な範囲は、 1 attoREP (attoは10の-18乗倍)から争議保証金額までです。従って、争議保証金額以上にREPをステークすることはできません。

争議保証金はどのようにして決まるか

争議保証金は以下の式に基づき自動的に設定されます。

$$ B(ω,n) = 2A_n – 3S(\omega,n) $$

各変数の意味は以下の通りです。

  • n:争議ラウンド回数。例えば、n=1ならば1回目争議ラウンド
  • ωn回目争議ラウンド開始時点の暫定アウトカム以外のアウトカム
  • B(ω,n)n回目争議ラウンドでωを暫定アウトカムにするための争議保証金
  • Ann回目争議ラウンド開始時点における、対象マーケットの全アウトカムの争議ステーク合計
  • S(ω,n)n回目争議ラウンド開始時点における、アウトカムωに対する争議ステークの合計

争議保証金の目的と効果

争議保証金は、争議ラウンドでステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになれば、争議ステークに対するROI(投資利益率)が50%になることが保証されています。

例えば、争議ラウンドで 100 REP をステークし、そのステーク対象がファイナルアウトカムになれば、ファイナライズ後に +50% された 150 REP が戻ってきます。

つまり、争議したアウトカムが首尾よくファイナルアウトカムとなれば、ステークしたREPを1.5倍に増やすことができるのです。これはREP保有者を争議に参加させる動機付けになります

ただし、ファイナルアウトカムにならなければステークしたREPは没収され、そのREPはファイナルアウトカムにステークしたユーザーに配布されてしまうため、慎重なREP保有者は争議に参加しないことも予想されます

なお、上記の式によって争議ステークのROIが50%になることが保証される件については、ホワイトペーパー「Appendix A:ファイナライズ所要時間と再配布」の定理3で証明されています。

争議保証金がいくらになるか例を挙げて考えてみよう

争議保証金が争議ラウンドを経るたびに、どのように変化していくか例を挙げて見てみましょう。

【例】
アウトカムが2つ(YES/NO)のマーケットがあり、マーケットの終了日時(end time)は迎えましたが、まだイニシャルレポート(initial report)は行われていないとします。

登場人物は以下の通りです。
・アリス:指名レポーター
・ボブ:争議ラウンド1回目の争議参加者
・チャーリー:争議ラウンド2回目の争議参加者
・デイヴ:争議ラウンド3回目の争議参加者


【イニシャルレポート】
指名レポーターであるアリスが、指名レポートでアウトカム”YES”に 10 REP がステークしたとします。

この時点でのマーケットの暫定アウトカムは”YES”です。

このマーケットが次の手数料待ち期間フェーズを経て、争議ラウンドに移行したとします。


[争議ラウンド1回目]
ボブが、暫定アウトカムを”YES”→”NO”に変更したいとします。

暫定アウトカムを”NO”に変更するための争議保証金B(ω,n)を求めるため、上記の数式に各値を代入してみましよう。

A1 = 10(YES) + 0(NO) = 10 REP 、 S(ω,1) = 0 REP
であるため、

$$ B(ω,1) = 2A_1 – 3S(\omega,1) = 2 * 10 – 3 * 0 = 20 REP $$

となりました。

従って、争議ラウンド1回目の争議保証金は 20 REP です。

その後、ボブは争議保証金 20 REP を支払い、暫定アウトカムが”NO”に変更されたとします。


[争議ラウンド2回目]
チャーリーが、暫定アウトカムを”NO”→”YES”に変更したいとします。

暫定アウトカムを”YES”に変更するための争議保証金B(ω,n)を求めるため、上記の数式に各値を代入してみましよう。

A2 = 10(YES) + 20(NO) = 30 REP 、 S(ω,2) = 10 REP
であるため、

$$ B(ω,2) = 2A_2 – 3S(\omega,2) = 2 * 30 – 3 * 10 = 30 REP $$

従って、争議ラウンド2回目の争議保証金は 30 REP です。

その後、チャーリーは争議保証金 30 REP を支払い、暫定アウトカムが”YES”に変更されたとします。


[争議ラウンド3回目]
デイヴが、暫定アウトカムを”YES”→”NO”に変更したいとします。

暫定アウトカムを”YES”に変更するための争議保証金B(ω,n)を求めるため、上記の数式に各値を代入してみましよう。

A3 = 40(YES) + 20(NO) = 60 REP 、 S(ω,3) = 20 REP
であるため、

$$ B(ω,3) = 2A_3 – 3S(\omega,3) = 2 * 60 – 3 * 20 = 60 REP $$

従って、争議ラウンド3回目の争議保証金は 60 REP です。

その後、デイブは争議保証金 60 REP を支払い、暫定アウトカムが”NO”に変更されたとします。


[争議ラウンド4回目、ファイナライズ]
争議ラウンド4回目で争議は失敗し、その時点の暫定アウトカム”NO”がそのマーケットのファイナルアウトカムになったとします。

この時点での各ステークホルダーのステーク内容は以下の通りです。

YES NO
アリス 10 REP
ボブ 20 REP
チャーリー 30 REP
デイヴ 60 REP
合計 40 REP 80 REP

[結果]
アリスとチャーリーはファイナルアウトカムでない”YES”にステークしたため、ステークしたREPを失います。

対して、アウトカム”NO”にステークしたボブとデイヴには、彼らがステークしたREPの割合に応じて、アウトカム”YES”にステークされたREPが配布されます。

ボブとデイブにそれぞれどのぐらいのREPが配布されるか計算してみましょう。

ボブのステーク割合 = 20 REP / 80 REP = 25 %
デイブのステーク割合 = 60 REP / 80 REP = 75 %

であり、

配付対象(“YES”にステークされた)REP = 40 REP

であるため、ボブとデイブには以下のREPが配布されます。

ボブに配布されるREP = 25 % * 40 REP = 10 REP
デイヴに配布されるREP = 75 % * 40 REP = 30 REP

ボブは 20 REP ステークした結果、+10 REP され 30 REP に増えました。
デイヴは 60 REP ステークした結果、+30 REP され 90 REP に増えました。

このように争議ラウンドでステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになれば、ステークしたREPに対して 50 % のROIが保証されています。

争議が成功/失敗したマーケットはどうなるか

争議の成功/失敗に応じて、マーケットの遷移は異なります。

【争議が成功した場合】
以下のいずれかの状態に遷移します。
・フォーク
・次の手数料待ち期間フェーズを経て、再び争議ラウンドに移行

フォーク(fork)が発生するのは争議保証金がフォーク閾値(fork threshold)を超過した場合です。フォーク閾値は全REPの2.5%と定められており、争議保証金がこの量を超過するとフォークが発生します。

争議保証金がフォーク閾値を超過しなければ、マーケットは「次の手数料待ち期間フェーズ」に突入し、最大7日間の待機状態を経た後、再び争議ラウンドに突入し争議が行われます。

争議ラウンドは最大20回までしか行われません。なぜならば21回目以降は争議保証金がフォーク閾値を超過し、フォークが発生してしまうためです。

争議ラウンドが最大20回であることについて、ホワイトペーパー「Appendix A:ファイナライズ所要時間と再配布」の定理5で証明されています。

【争議が失敗した場合】
その時点の暫定アウトカムがマーケットのファイナルアウトカムとなります。

争議失敗時、その争議ラウンドでの争議ステークは、争議ラウンド終了時に元の保有者に返却されます

まとめ

  • 争議保証金とは暫定アウトカムを変更するために必要なREP量のこと
  • 争議ステークが争議保証金に到達すると暫定アウトカムが変更される
  • 争議ステークは1ユーザーが支払っても良いし、複数ユーザーで支払っても良い
  • 争議保証金額は、各アウトカムへのステーク量を基にAugurが自動的に算出・設定する
  • 争議でステークしたアウトカムがファイナルアウトカムになればステークしたREPに対し50%のROIが保証される
  • 争議保証金額がフォーク閾値を超過するとフォークが発生する
  • 争議保証金額に到達しなかった場合、その争議ラウンドの争議ステークは元の保有者に返却される
  • 争議ラウンドは最大20回まで